大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所木更津支部 昭和42年(わ)49号 判決

被告人 T・H(昭二四・一一・四生)

O・D(昭二五・七・一四生)

主文

被告人T・Hを懲役五年以上一〇年以下に、

同O・Dを懲役四年以上八年以下に

各処する。

未決勾留日数中六〇日を右各本刑に算入する。

理由

第一被告人両名の経歴等

一  被告人T・Hは本籍地で出生し、同地の小、中学校を卒業したが、小学校に入る少し前ころ実父母が家出し、ついで離婚したため父方の祖母T・K代に養育され、中学校を卒業すると直ちに叔父T・Mが船長をしている○村○則所有の漁船第○ひ○丸の甲板員として遠洋漁場で働いていたが、昭和四二年三月頃から漁夫生活を嫌い、同年五月二日頃同船が神奈川県浦賀港に碇泊中脱船して戸塚市内で電話工事に従事した後、同年六月上旬頃高知県室戸岬に居住する母方の祖母S・G代方を訪れ三日位同家に宿泊していた。

二  被告人O・Dは本籍地で出生し、二歳の時実母死亡後は義母に養育され、同地の小・中学校卒業後製材所で働らいていたが、昭和四一年一二月やめて約一ヶ月間土方人夫として働らきその後は肩書本籍地の自宅で徒食していた。

三  被告人T・Hは前記S・G代方に滞在中、被告人O・Dと会い、同被告人を誘つて二人で横浜に行き、昭和四二年六月○○日頃から共に千葉県勝浦市○○○×××番地○○アイランド内○○○○開発株式会社に土工として住込み稼動していた。

第二本件犯行の動機及びそれに至るまでの経緯

一  被告人両名は前記のとおり○○○○開発株式会社に稼動していたが、被告人O・Dは日給一、七〇〇円で他の者達より幾分低額である上、別紙犯罪一監表(以下別表と略称する)(三)3記載の如く同年七月○日頃宿舎内で同僚工員の現金を窃取して同僚等から感づかれ、さらに知能低劣のため他の土工等から馬鹿にされるようになつて居づらくなつたので同月△日頃退職して高知県下に住む義母の許に帰ろうと決意し、その頃これを被告人T・Hに打ち明けた。

二  被告人T・Hは最初は引き続き働らくよう慰留したが、被告人O・Dの決意は固く容易に飜意しないので結局これに同意したものの、被告人O・Dが実家を出て来るとき同被告人の母親に「月三万円は送金出来る」と口添えした手前、同被告人を無一文で実家へ帰えすに忍びず、同被告人に「何か悪いことをして五、六万円の金を作ろう」と持ち掛けてその賛成を得た。

三  そこで被告人両名は同月△日頃の正午頃前記○○アイランドの公衆便所付近で相会し、被告人T・Hが「ダイナマイトで小屋か自動車を爆発させて人の騒ぐ隙に金を盗んで分けよう」と提案したところ、被告人O・Dもこれに同意し、更に会社の火薬小屋からダイナマイトを盗むことをも相談の上、被告人両名は同日夕方別表(一)3記載のとおりカーリット等を窃取して自分等の飯場に持ち帰つた。

第三罪となるべき事実

一  被告人両名は前記共謀に基づき

(一)  前記爆薬の使用方法及び爆発力等を予知するため実験の目的で、昭和四二年七月△日午後七時頃勝浦市○○○字○○×××番地○○○○開発株式会社資材置場において、法定の除外事由がないのに、知事の許可を受けないで、工業用雷管一個に附着させた長さ約五〇センチメートルの導火線にたばこの火で点火して右導火線を燃焼させ、且つ右雷管を爆発させて火薬類を爆発させ

(二)  建造物等を爆破し、人の混乱に乗じてパチンコ店等の売上金や通行人等の所持金を奪取しようと企て、被告人T・Hが別表(二)2記載のとおり窃取したカーリット等を携えて同月○○日夕方千葉市に赴き、同月△△日午前零時頃同市○町○○○番地○江○子外一名所有の鉄筋モルタル造り二階建建物(延坪二四三・八五坪-約八〇四・七平方メートル)の西側外壁の地上約二・八メートルの部分に設置されている日本電信電話公社所有の電話加入者保安器二個の上に爆発物である○○化成品株式会社製造の黒二号カーリットに、長さ約三・一五メートルの導火線を附着させた雷管を仕掛けておき、附近に通行人が多く、且つ同建物内に遊戯客の多い同日午後八時一〇分頃たばこの火で右導火線に点火してこれを約二・九五メートル燃焼させて右爆発物を使用し、

(三)  列車を爆発顛覆させ、乗客の混乱に乗じてその所持金等を奪取しようと企て、前同日午後九時二三分千葉発館山行下り第一五七D列車に乗つて午後一〇時四分頃○○駅で下車し、同日午後一一時頃千葉県君津郡○○○町大字○○○××××番地先に到り、導火線の燃焼速度について実験し、導火線約五〇センチメートルが燃焼する所要時間が約一分であることを確認し、目的とする列車の汽笛が聞えてから直ちに点火すること、脱線顛覆を確実にするため爆薬を二ヶ所に仕掛けることなどを打合わせた上、同番地先日本国有鉄道房総西線蘇我基点一九・一九二二キロメートル及び一九・一九五五キロメートルの両地点の海側軌条下に夫々爆発物である○○化成品株式会社製造の黒二号カーリットに、長さ約四六センチメートルの導火線を附着させた工業用雷管各一個を仕掛け同日午後一一時一三分頃○野○夫が運転し乗客約二三〇名の現在する千葉発木更津行下り第二一四九D八輛編成の気動列車が警笛を鳴らしながら接近するのを認めるや被告人両名は夫々前記各導火線の末端から約一三センチメートル雷管寄りの部分につけておいた切り口にたばこの火で点火して右爆発物を爆発させてこれを使用したが同列車が爆発の直前に右個所を通過したため、右軌条を各約五ミリメートル上方に彎曲させる等の損傷を与えたに止まり、人の現在する汽車顛覆破壊の目的を遂げず、

(四)  別表(一)記載のとおり同年六月○日頃から同年七月××日頃までの間前後七回に亘り、横浜市西区○○町○○番地○○○動物園内外六ヶ所において、駒○十○子外一一名所有の現金合計一六、八四五円及び黒二号カーリット二本、外衣類等約六六点(時価合計約一六、三二六円相当)を窃取し、

二  被告人T・Hは

(一)  別表(二)記載のとおり、同年七月×日頃から同月××日頃までの間前後四回に亘り、勝浦市○○○△△△番地○○○○開発株式会社宿舎外三ヶ所において、金○雄外五名所有の現金九五〇円及び黒二号カーリット二本外ラジオ等約一一点(時価合計約一一、三四九円相当)を窃取し、

(二)  公安委員会の運転免許を受けないで、同月××日午前一〇時一五分頃市原市○○○○××番地先道路上において、自動二輪車(○○町○○○号)を運転し、

三  被告人O・Dは別表(三)記載のとおり、同年六月△△日頃から同年七月○日頃までの間前後三回に亘り、勝浦市○○○×××番地○○アイランド隧道工事場外一ヶ所において、脇○雄外二名所有の現金合計二、九〇〇円及びナイフ一挺(時価約一〇〇円相当)を窃取し

たものである。

第四証拠の標目(編 省略)

第五弁護人の主張に対する判断

被告人O・Dの弁護人は、同被告人は本件犯行の当時心神耗弱の状況に在つた旨主張するも、同被告人の知能程度が軽愚級であることは当公判廷に顕出の少年調査記録中の鑑別結果通知書中の記載等によつて明らかであるが、本件犯行当時心神耗弱の状況に在つたと認むべき証拠はないから右主張は採用できない。

第六法律の適用

法律に照らすと、判示第三被告人両名の所為中、一の共謀の点は刑法六〇条に、同じく一の(一)は火薬類取締法二五条一項、五九条五号、罰金等臨時措置法二条一項に、一の(二)は爆発物取締罰則一条に、一の(三)の爆発物使用の点は爆発物取締罰則一条に、汽車顛覆未遂の点は刑法一二八条、一二六条一項に、一の(四)は同法二三五条に、同じく被告人T・Hの所為中二の(一)は孰れも同法二三五条に、(二)は道路交通法六四条、一一八条一項一号、罰金等臨時措置法二条一項に、同じく被告人O・Dの判示三の所為は孰れも刑法二三五条に各該当するところ一の(三)は一個の行為で二個の罪名に触れるから同法五四条一項前段一〇条に則り重い爆発物取締罰則一条の刑に従うこととし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるところ、諸般の情状を斟酌して所定刑中一の(一)及び二の(二)については孰れも懲役刑を、一の(二)及び(三)については孰れも有期懲役刑を夫々選択し、同法四七条本文、一〇条、一四条に則り犯情最も重いと認める一の(三)の罪の刑に従い処断すべきところ、被告人両名は二〇歳未満の少年であるから、少年法五二条一項及び二項により修正された刑期の範囲内で被告人T・Hを懲役五年以上一〇年以下に、同O・Dを懲役四年以上八年以下に各処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中六〇日を右各本刑に算入することとし、被告人O・Dの訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書によりその全部を同被告人に負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

検察官 相沢三千男 関与

(裁判長裁判官 星宮克己 裁判官 鍬田日出夫 裁判官 稲垣正三)

別紙 犯罪一覧表(一)

番号

被告人

窃取年月日

窃取場所

被害者

被害金品

同価格

T・H

O・D

昭和四二年六月○日ころ

横浜市西区○○町××

○○○動物園内

駒○十○子

現金一一、三〇〇円

ゆで玉子等一五点

約四三五円

右同

同月××日ころ

勝浦市○○××××

○○工務店宿舎内

小○寺○夫

外二名

現金一、五四五円

手さげ鞄等約一五点

約一、〇五六円

右同

同年七月△日ころ

同市○○○×××

○○アイランドの火薬類取

扱所内

○○○○開

発株式会社

黒二号カーリット二本、

工業用雷管約一一個、導

火線約一一・五メートル

約四九五円

右同

同月××日ころ

千葉県君津郡○○○町○○

○×××の×○○組現場事

務所及び物置内

○中○男

外三名

オープンシャツ等七点

約九七〇円

右同

右同日

同町○○○○海岸埋立地先

○○起業飯場附近

豊○文○郎

自動二輪車一台

約三、〇〇〇円

右同

右同日

市原市○○○○○○

○内○克方

○内○克

現金四、〇〇〇円

カメラ等約六点

約八、八〇〇円

右同

右同日

同郡○○町○○海岸

○○海の家売店内

○田○一

ウイスキー等一〇点

約一、五八〇円

合計

七か所

一二名

現金

その他六八点

一六、八四五円

時価約

一六、三二六円相当

別紙 犯罪一覧表(二)

番号

被告人

窃取年月日

窃取場所

被害者

被害金品

同価格

T・H

昭和四二年七月

×日ころ

勝浦市○○○△△△

○○○○開発株式会社宿舎内

金○雄

外二名

現金九五〇円

トランジスターラジオ

一台

約一、〇〇〇円

右同

同月○○日ころ

前記○○アイランドの○○

○○開発株式会社火薬類取

扱所内

上記会社

黒二号カーリット二本

工業用雷管約七個、導火

線約二・三メートル

約二四九円

右同

同月××日ころ

同郡○○○町○○○△△△△

○田○江方

○田○江

こうもり傘一本

約一〇〇円

右同

右同日

同郡○○町○○××××

○○公園キャンプ場

○葉○一

トランジスターラジオ

一台

約一〇、〇〇〇円

合計

四か所

六名

現金

その他一三点

九五〇円

時価約

一一、三四九円相当

別紙 犯罪一覧表(三)

番号

被告人

窃取年月日

窃取場所

被害者

被害金品

同価格

O・D

昭和四二年六月

△△日ころ

勝浦市○○○×××

○○アイランド隧道工事場内

○田○雄

ナイフ一丁

約一〇〇円

右同

同月□□日ころ

同市○○○△△△

○○○○開発株式会社宿舎内

脇○雄

現金五〇〇円

右同

同年七月○日ころ

右同

右同人

外一名

現金二、四〇〇円

合計

二か所

三名

現金

ナイフ一丁

二、九〇〇円

時価約

一〇〇円相当

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例